「それに結局────パートナーはお兄様になったんですから、これくらい許してくださいませ」

 一時はリエート卿を婚約者に仕立て上げ、皇室の要請を断る案が出ていたものの……皇室と話し合い、何とか丸く収まった。
まあ、兄としてはモヤモヤの残る結果になってしまったかもしれないが。
何故なら────

「────パートナーは僕でも、ファーストダンスの相手は殿下じゃないか」

 声色に不満を滲ませ、兄は拗ねたようにそっぽを向いた。
どうやら、皇室の提示した妥協案を未だに受け入れられないらしい。
エスコート役の仕事を一部横取りされたようで、気に食わないのだろう。
一から十までちゃんとこなしたい派の人間だから、余計に。

「ダンスを踊ったら、直ぐにお兄様の元へ戻ってきますわ。ですから、機嫌を直してください」

「……本当に直ぐだろうな?」

「はい」

 間髪容れずに頷くと、兄は僅かに表情を和らげた。
いや、ポーカーフェイスに戻ったと言った方がいいかもしれない。
カチャリと眼鏡を押し上げ、座席の背もたれに身を預ける彼は大きく息を吐いた。