お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

 アレン小公爵から聞き出した情報をもとに、彼は魔物の大群が居る方向へ足を運ぶ。
きっと、そこに討伐隊も居る筈だから。

「おい!置いていくなよ!?」

 十秒ほど遅れて駆け出したにも拘わらず、リエート卿は早々に追いつき、文句を言う。
────が、兄は華麗にスルーした。

「いいか?リディア。他人に魔力を譲渡する際はまず、相手の体に触れること。これが絶対条件だ」

 時間がないからか、兄はさっさと魔力譲渡の説明を始める。
すると、さすがのリエート卿も口を噤んだ。
魔物の大群に遭遇してから説明、では遅すぎると
思ったのだろう。

「相手の体に触れている箇所へ魔力を集めて、肌越しに押し込む。注射するようなイメージと言えば、分かるか?」

「はい」

「じゃあ────」

 そこで一旦言葉を切ると、兄はふと前へ視線を向けた。
と同時に、ニヤリと笑う。
何故なら、目の前に────魔物の大群が居たから。
数は……分からない。とにかく、いっぱいとしか。
『何これ……?』と唖然とする私を他所に、兄はスッと目を細めた。

「────ちょうどいいところに来たな。よし、リディア今ここで魔力譲渡を行え。リエートは俺達の護衛」

「は、はい!」

「おう!任せとけ!」

 リエート卿は元気よく先頭へ躍り出ると、手に持った剣で魔物を切り裂いた。
数に圧倒されることなく、きちんと役目を果たす彼の姿に、私は感銘を受ける。