お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

「リエートをよろしく頼む」

「はい」

 リエート卿を託された兄は、『絶対に死なせません』と誓う。
すると、アレン小公爵がホッとしたように表情を和らげた。
『気をつけて行ってこい』と促す彼に一つ頷き、兄は私達の横を通り過ぎようとする。
────が、先程屋敷を氷漬けにしたことを思い出し、クルリと方向転換した。
『こっちから出るぞ』と私達に声を掛け、窓へ近づくとロックを解除する。
そして、一も二もなく飛び降りた。
と言っても、リエート卿が慌てて風魔法を使ってくれたため、落下スピードは非常にゆっくりだったが。

 『お前、死ぬ気か……?』と零すリエート卿は、半ば呆れながらも一先ず私を抱き上げる。
『しっかり掴まってろよ』と声を掛けてから浮遊し、そのまま窓から出た。
ふよふよと漂うように宙を舞い、地上へ降り立つ。
と同時に、兄がリエート卿の腕の中から私を取り上げた。

「はぁ……お前さ、先に言うことあるだろ」

「ご苦労」

「いや、そこは普通に『ありがとう』って言えよ!?」

「お前が魔法を使わなくても、普通に着地出来た。リディアのことも、下から抱き止めようと思っていたんだ。まあ、お前の魔法で運ぶ方が安全だから多少なりとも感謝はしているが」

 言い負かされたことを根に持っているのか、兄はちょっと意地悪な態度を取る。
『なんだかんだ、まだ子供なんだな』と苦笑いする私を他所に、彼は屋敷を見上げた。
かと思えば、『行ってらっしゃい』と送り出してくれるクライン公爵家一行に頭を下げる。
つられて私もお辞儀すると、兄はまだ騒ぐリエート卿を置いて走り出した。