「リエート、お前はここに残れ。妹を頼む」

 ポンッとリエート卿の肩を叩き、兄は『来なくていい』と主張する。
ハッとしたように目を見開くリエート卿を一瞥し、彼は再度アレン小公爵と向かい合った。

「討伐隊の方には、僕一人で行きます」

「……なら、せめて俺も」

「いえ、アレン小公爵はここに残ってください。リエートも充分強いですが、複数の敵を相手取った戦いには不向きです。こいつの戦闘スタイルは、基本剣術メインなので。魔法も一応使えますが、まだ未熟。これだけの人間を庇いながら戦うのは、至難の業でしょう」

 『リエート一人では力不足』と指摘し、クルリと身を翻す。
『もはや、議論の余地などない』とでも言うように、兄はこの場から立ち去ろうとした。
────が、アレン小公爵に腕を掴まれ、引き止められる。

「単騎で魔物の大群に突っ込むなんて、無謀だ!討伐隊と合流する前に魔力切れでも引き起こしたら、どうする!」

 最悪の事態を想定するアレン小公爵に、私もリエート卿もハッとした。
頼れる仲間も居ず、一人で……しかも、魔法なしに戦う可能性があるのだと悟り、恐怖する。
兄の具体的な魔力量は分からないが、魔物の大群を相手しながら討伐隊に合流するのは難しいかもしれない。
だって、相手の居場所も分からないのだから。