「それより、さっさと構えろ────魔王の配下達がお出ましだぞ」

 その言葉を合図に、近くの草むらから兎達が飛び出してくる。
頭にツノを生やしているため、一目で『普通の動物じゃない』と判断出来た。
『これが魔物なのね』と観察する私を他所に、リエート卿が剣を抜く。

「二人は下がっていてくれ。直ぐに片付ける」

 先程までの弱々しい態度から、一変……リエート卿は凛とした面持ちで前を見据えた。
かと思えば、目にも止まらぬ速さで兎の首を斬り落としていく。
おかげで被害は0だった。

 敵とはいえ、生物の死体を目の当たりにするのは……辛いわね。
長い入院生活を通して、仲良くなった患者が亡くなってしまうことはよくあったけど、死ぬ現場に居合わせたことはない。
ましてや、斬殺なんて……。
凄く今更だけど、私は本当に異世界へ来てしまったのね。

 改めて痛感する前世との違いに、私は思いを馳せる。
自分なりにこっちの世界に馴染もうと頑張ってきたつもりだが……まだまだのようだ。
『これからはもっと努力しなきゃ』と決意する私を他所に、兄はふと顔を上げる。