「いや……オフィーリア・マロウが、常人には理解出来ない判断をした、変な女だということは……姉さんの言うとおりで、僕もそうだと思うけど? っていうか、世間の見方はほぼそうだよ」

 モーベット侯爵邸の広く豪華な応接室で、結婚してからこれまでを語った私の話を黙って聞いていて、弟アメデオはお茶を啜り、落ち着いた口調でそう言った。

 姉の私と同じ栗色の髪と緑色の瞳を持つこの子は、ドラジェ伯爵家の跡取り息子で、まだ貴族学校に通う十四歳。

 けど、三つ上の姉よりも、アメデオは断然に落ち着き払っている。今は貴族学校の中等部最高学年で、最優秀成績者として学年の監督生をしているらしい。顔の良い父に似て容姿も整っているし、姉弟だけどあまり似てはいない。

 結婚式を挙げてから、ひと月経って、そろそろ新婚結婚生活も落ち着いただろうと、不肖の姉を心配して、嫁入り先のモーベット家まで、こうして訪ねて来てくれたのだ。

 このアメデオは頭が良過ぎるせいか、感情の制御が上手く、それゆえに幼い頃から何を考えているか見えにくい。

 けど、姉の私のことはいつも心配してくれていて、元婚約者に婚約破棄された時も「よく今まであの横暴に我慢したし、最後にやってやったね。よくやったよ。姉さん」と、ホールケーキをあいつの顔にぶつけたことを、たった一人だけ褒めてくれた。

 ちなみに、婚約破棄の顛末を聞いた両親は「もうこれで、レニエラは貴族から求婚されるなんてあり得なくなった」と、呆然として悲嘆にくれていたし、怒り狂ったアストリッド叔母様は元婚約者に刺客を送ろうと、驚く夫へと提案していた。