2015年7月28日───



朝から強い風が吹き荒れて、雨がまるで不吉を呼ぶかのように暗雲あんうんと雷雲らいうんを伴ともなった雲を密集みっしゅうさせた。


雲々くもぐもはその装よそおいのとどまることを知らずか、辺りの暗雲と雷雲をさらに集めて引き寄せた。


こうして姿を現したのは大規模だいきぼな全ての負を象徴しょうちょうするかのような黒い雲海うんかいの密集体みっしゅうたい。

それはまるで空に突然現れたどこかの神話に登場する化け物のようだった。


雷雲らいうんが恐怖と不安と死の旋律せんりつを奏でて、地上では安定しない危険な音色ねいろが鳴り響く。


雨粒あまつぶはどれも大きく、アスファルトを強く打ち、そのさまは「怒り」や「憎しみ」を孕はらんでるみたいに思えた。



しかし、時に空は雨を優しく降らせてそれを「恵めぐみ」とする時もある。



だが、7月28日の空は「怒り」や「憎しみ」を地上に注そそいでるようで、風も無慈悲むじひなほどに強く街々まちまちの人は通学や通勤で傘かさが風と雨の流れる強さに流されて一瞬いっしゅんで破壊はかいされた。



歩道を行き交う人がいなくなり。


虚しく雨粒が強くアスファルトを打ちつける音と道路で車が行き交う音だけが聞こえる。


その街々の片隅かたすみで小さな言の葉ことのはは懸命けんめいに命の声を上げていた。


だがその声など取るに足らないように現実は残酷にその小さな声と小さな言の葉を相殺そうさいした。



それが自然の摂理せつりで理ことわりだと小さな懸命な命に突きつけるようで。


それが人が作りし、正義と悪を分わかつことの出来る社会であり、世の中であると。


それが国や法律で作り上げた多くの余多あまたの数え切れない犠牲から手に入れた真の平和であり、それが答えだと回答しているみたいに、弱い命は強い命の糧かてとなりて─

──いずれ忘れられていく命の小さな灯火。


生きていた軌跡きせきすら気づかれることのない命の行方ゆくえとその定さだめ。