「どうした鹿山? そんな渋い顔をして」
 日本有数のオフィス街。そのなかでも一際存在感のある、最先端の機能性を有した大きな本社ビルの最上階で副社長は私にそう言った。
 いれたばかりの、熱いコーヒーの香ばしい香りが副社長室に広がる。
 副社長は艶めかしく光るマホガニーの机に今朝の新聞を広げながら、側にいた私に視線をなげた。
「渋い顔……そうですね。そんなに顔に出ていますか?」
「ああ。眉をひそめたかと思ったら、今度は目を強くつむったり……腹減ったのかと」
 毎朝やってくる新しい朝の力強い陽射しを背に受け、この世のものとは思えないほどの美貌を持つ副社長が真剣な顔で聞いてくる。
 私はトレーを胸に抱えながら、そのありがたいお顔をぼんやりと眺めていた。