「……勝ち負けでは考えたくなかったけど、敵わないとは思っちゃったんだよなぁ」
 自分でもメイク動画を観たり、インフルエンサーがおすすめするメイク用品を試したりしたけれど……あの綺麗な子のように、しっくりと馴染んだ感じには到底仕上がらなかった。
 結局私は諦めてしまい、新しい恋に浮かれている今倉くんと向き合うのがしんどくて別れた。
 私は、今倉くんの事が本当に好きだったの?
 なんとなく、長く付き合って結婚する雰囲気になったから流されたんじゃないの?
 自問自答はいつまでも、私の心の中で繰り返されていた。
 ため息を吐きそんな事を考えていると、一台の車が目の前に静かに滑り込んだ。
 大きいが威圧感を与えない美しいフォルムの高級国産車、後部座席から副社長が降りてきた。
 運転をしていたのは、加賀さんだった。
 二人とも、ひと目でわかる上等なスリーピーススーツを着ている。
 副社長は会社で見るヘアスタイルより、少しだけ遊ばせたプライベートな雰囲気だ。
 いつもは下ろしている前髪を片方だけ上げて整えていて、それがとても似合っていてドキリとしてしまった。