私は飛んでる主婦。

伯爵の愛玩として、なにもかも彼任せ。

お姫様抱っこだって慣れたわ。

逞しく鍛えられた腕に抱かれ、そっと恐る恐る握るだけの私には服しか見えない。

彼の長身の身の丈が、私に覆いかぶさり。

優しいキスの雨。

「・・・ン・・・」

優しい抱擁に流され、彼の熱い吐息が掛かる。

覆い被さるから、甘えるように、しがみついた。

甘い時間だけが流れていく。
 

「ミュラー」


私も応えるように、彼の服を握りながら。



「・・・ア・・・サー・・・」


男の愛玩として、なすがままに。

流されただけの関係。

優しく降り注ぐ声に、大輪の薔薇が咲く。

そんな笑顔見たくない。

私は身代わり、彼女のミラー。

決して本気になれないの。


「ミラー」


目の前が暗くなるまで抱きしめられ、私は彼に身を預けながら涙が止まらない。

これが彼の偽りであろうとも。

例え彼女の身代わりのドールでもプライドあるし。

敵の情けじゃ、情けなさ過ぎ。

それでも愛玩だから、私は受け取め微笑む。

もう抜けたい。

お姫様抱きされながら、優しい瞳に包まれている。

こんな優しさなんか、私は知らないもの。

いつでも戦場だったわ。

誰もが敵で誰もが裏切るから、私は人を信じる事が無かったわ。

夢ばかりを追いつづけ、失踪し続けた女の人形。

現実主義者には耐えられないし、堪えられない性格だからドールなんてしたくないの。