「え?
そんなことありましたっけ?」
急いで将棋会館での用事をすませ、お腹も空いていないのに食堂に行った。
黒木田に聞いた話をすると、めぐるは心当たりがないようで、小首をかしげている。
「なにかのタイトル戦のときの話だと思う」
「タイトル戦……、日本各地の旅館やホテルとかで行われるんですよね?」
めぐるは腕を組み、天井を見たあとで、あ~、と言う。
「そういえば、私、日本の老舗ホテルとかにもお菓子卸してますからね。
盛り合わせの中とかにあったんじゃないでしょうか?」
「……そうなのか。
黒木田はお前の菓子を食べた対局は激戦の末、勝ったから、縁起のいい菓子だと言っていた」
「そうなんですか。
じゃあ、田中さんにも無になるお菓子より、縁起のいいお菓子を作って差し上げたいですね」
そう言って笑うめぐるの顔を田中は黙って見つめていた。



