学校が終わり、駅前にある塾に自転車で向かう。
勉強熱心な両親に勧められたのが、塾に通い始めたきっかけだ。


「絢斗先生!」
「あ、ゆきちゃん。今日もお疲れ様」

背が高く、スラっとしている絢斗先生。
黒縁眼鏡にスーツがとても良く似合う。

「先生、今日のピアス素敵!」
「あ、気付いた? リングなの」
「似合うー!」

爽やかな笑顔も素敵。
そんな絢斗先生に背中を押されながら建物の中へ入った。



「今日ね当番だったのだけど、黒板の清掃忘れてて…生物の先生に罰として問題集を集めて持ってこい。って言われたんだよ。言い方酷くて…」
「それはやり忘れたゆきちゃんも悪いけれど。その先生も言い方を考えた方が良いよね。ゆきちゃんの話を聞いていていつも思うけれど、教師向いていないよ」


半個室の学習スペースに入り、鞄から教科書を取り出す。
絢斗先生は右手で眼鏡を上げて、プリントをめくっていた。



…カッコイイ。

絢斗先生…本当にカッコイイ。



実は、誰にも言っていないけれど。

絢斗先生のことが好き。
ずっと、片想いをしている。




「さて、ゆきちゃん。今日の勉強を始めましょう。お願いします」
「お願いします」


絢斗先生の説明は本当に分かりやすい。
授業で理解できなかったところを詳しく、分かりやすく説明してくれる。


「いやー…学校の授業も絢斗先生だったら良いのに。本当に毎回分かりやすい…。何で塾の講師をしているの?」
「理科の高校教諭免許を持っているんだけどね。身だしなみに厳しいじゃない? 僕、ピアス開けたかったからさ。ピアスがOKだったこの塾の講師として採用してもらったってわけ」
「そこかぁ…」

確かに、学校の先生はピアスをしていない。
服装も地味だし。

…。

何故か、坂本先生がよぎった。

あの人はジャージを着ていたな。ダサいジャージ。


「…絢斗先生は今のままで良い気がしてきた」
「でしょ? 良いじゃない。ここで学校の先生の代わりに、僕が分かりやすく教えてあげるから」


優しく微笑んでくれた絢斗先生の表情が素敵で、心臓の鼓動がより早まった。