手荷物は何も持たず、堂々と歩いてきてチェックインするとあの悩殺スマイルを落とした。

 フロントの女性従業員は真っ赤になっている。

 彼はそのままカフェへ消えた。後ろから彼の付き人兼秘書である佐々木がついていく。

 芙蓉は急いでフロントクラークで仲のいい同僚に小さい声で確認した。

「今日、あちらのVIPが来ることを聞いていました?」

「ええ。ツインスターホテルの支配人中田さんですよね。聞いてましたよ、でも急でした。三日くらい前ですかね」

「そう……」

「え?まさか、今日担当なのに聞いてなかったんですか?ヘッドからも?」