黒髪の後ろ髪は、風で少しなびいている。
背伸びしても届かない彼の身長に、私よりも細そうなウエスト。香水なんて付けていないのに、不思議と香る彼の良い匂い。
彼の歩く足音すらも愛しくて、何もかもが好きですと答えたくなる彼の存在。
「腹減ったなぁ。」
「ご飯は?食べてないんですか?」
「今日ちょっとバタバタしてたから。てか何で敬語?タメじゃなかった?」
「ご飯食べた方が良いですよ?」
「聞いてた?俺の話!?」
気付けば少し離れていた距離から、二人並んで歩く河川敷。
だけど顔が見れない。
大好きで、恥ずかしくて見れない。だけどやっぱり見たくてちょっとだけ見てしまう。
クルクル回る、忙しい私の感情。
「小春ってちょっと馬鹿なんだな。」
え?
今、私の名前……。
あまりのビックリに、思わず足が止まる。
それに気付いた少しだけ進んだ悠紀くんも、足を止めて振り向く。
「どうした?」
振り向くとそこには、胸元で浮かび上がっている私と同じ運命の文字。
夜で見ると、それはまるでライトのように顔を照らしてくれている優しい光。
「名前……ビックリして。」
「あぁ。お前小春って言うんだろ?勇太郎さんと勇次郎さんから聞いてる。小春ちゃんを苛めたら分かってんだろうなって、めちゃくちゃ脅されたよ。」
「良い人達……なんです。」
立ち止まった私が再び歩き始め、それに安心したのか悠紀くんも一緒に足が動く。
「小春苛めたら俺多分、そこの河川敷で浮かんでるから苛めねーよ。」
「じゃ、じゃあ私!浮かんでいたら救い上げます!!」
「いや、魚じゃねーんだから。そもそも浮かんでたら手遅れだろ。」
そうですねと答えた後に、何だか可笑しくて両手で口を押さえて笑ってしまう。


