「でも…何も知らないけど…一目見ただけで、何かこう今まで感じたことがない胸の苦しみというか、彼の姿が頭から離れないんです。生まれて初めて…こんな感情を感じ取れたんです。」
「「………。」」
「Y地区だからとかX街だからとか関係なく、彼を知りたくなりました。そして、自分も変わりたいと初めて思えました。」
「「…すげぇ。」」


転げ落ちた二人は椅子に再度座り、今度はキラキラした顔で私の話す内容を聞いている。

「やっぱり運命の相手ってそうなるんですね!すげぇ。俺も早く出逢いたいです。」
「俺も早くビビって雷落ちた衝撃感じてみたいぜ。」


ピンポーン。

予約のお客がどうやら来たらしく、二人は慌てて店の裏で待機に入る。

んんっと身体を伸ばし、仕事モードに頭を切り替え、いつも通り頭からパープルのシルクの布を被りながら「こんにちわ。」と、目だけ見える接客をこなしていく。

毎日してきた占いの筈なのに、自分に好きな人が出来ただけでもっと親身に占ってあげたいと思うのが不思議な感覚。

幸せになって欲しい

導かれて欲しい

現実を受け止めて欲しい

お客に対して今まであまり思った事のない感情が生まれ、
どれもこれも悠紀くんと出逢ってからだと実感する。

だけど消えない不安要素。

彼の好きな人はどんな関係性なんだろう。


またY地区のあの店に、
今度は私服で訪ねて見よう。

もう、

眼鏡はかけていかない。