運命の証が無い人を見たせいで気分が悪くなり、歩道から外れた建物のビルの隙間で身体を休める。
「気持ちわる…。」
催してくる吐き気に思わず口を押さえる。
吐瀉物を出すことは無いが、久々に見るあの飲み込まれてしまいそうな禍々しい靄のせいで、身体中の精気を吸われたかのような脱力感。
リュックから飲みかけのペットボトルの水を取り出して息を整える。
胸の違和感は治まらないが、水のお陰で呼吸が少し落ち着いてきた。そしてふと目線を真っ直ぐ向けて気付く。
建物の隙間から見える河川敷。
悪い噂しか無い時折煙が立ち上るY地区の存在に、またしても気分が悪くなりそうな気がしてゆっくりとその場から立ち去る。
一瞬だけ、
自分の胸元に浮かび上がる特殊な文字が、強く光った気がした。
「…え?なんで?」
こんな事は初めてでだけどその事を考える気力もなく、最後の体力を振り絞って足早に家に帰った。
「おかえりなさい心春ちゃん。」
「…ただいま。」
「どうしたの?顔色真っ青だけ…あ!見たの?あれ。」
「…見た…あれ。」
お母さんも経験があるのか、あの黒い靄を口に出したくないのか【あれ】で話が通じ、
「深呼吸して!鼻から息を吸って口から出す!!ゆっくりね。」
呼吸を整えている時に心配そうに私を見守るお母さん。
昔はお母さんも【あれ】に苦労して、体調不良になったらしい。
勿論お婆ちゃんも同じ事を言っていた。
見える私達にしたら本当に近づきたくない存在なのだ。


