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臆病な自分が大嫌いだ。

それは、おれが幼い頃から決して変わらない不毛な感情。


朝、ひとり暮らしをしているおんぼろアパートから学校へ向かう。


美辺を突き放したあの日から、おれたちは1度も目を合わせていない。

自分から距離を取ったくせに、廊下ですれ違ったりする時に美辺に目を逸らされると胸がズキンと痛む。


……ほんと、なんでだ。

相手はただの高1女子。


適当に扱えば良いものを、おれはなぜか捨てきれずにいる。


美辺の心はもうおれにはないと分かっているのに、おれを見つめるあのまっすぐな瞳が忘れられない。


学校に行く前に必ず通る、この街の中心を担う駅に来た。

適当にカフェに入って朝食用のパンとコーヒーを買って、今度こそ学校へ向かった。


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晴天をここまで恨んだことはない。


「えー、ここの二項定理は…」


禿げた頭をした数学教師がこれまでの復習授業をしているのをぼんやり眺めながら、おれは大きくあくびをした。