「───ね、桜吹雪ってなんでこんなにきれいなんだろうって、僕もいつも思うよ」
………、っえ?
聞こえるはずのない声が、人の気配が、した。
そういえば、美術室の木製の扉、閉めてなかったっけ。
わたしが勝手に美術室の中に入ったことがバレてしまった。
「……っ、その、勝手に入ったりしてすみません! 少し、アルミ製のドアに興味をそそられて、」
声がした方を振り向いて、わたしは謝罪の言葉とともに勢いよく頭を下げた。
「はは、そんな謝ることじゃないよ。ここはもう使われなくなった美術室だし、わざわざこの部屋に入室するために先生からの許可を取る必要もない。よって、君が僕に謝る必要なんてなおさらない。そうでしょ?」
そう言って、目を細めて優しく笑った先輩らしき男子。
その笑みは大人っぽく、だけどそれと同時にどこか幼さも感じさせた。
金縁色の丸めがねがよく似合っている。
わたしを安心させるために、そう言ってくれたのかな……。
とても気さくで気遣い上手で、優しい人だなあ。
「先輩は、わたしより年上ですよね?」
「君は、……高校1年生?」



