まるで、窓の外がたくさんの桜が敷き詰められた絨毯のよう。
「…っわあ、すごい……綺麗」
その景色にすっかりと見惚れてしまったわたしは、窓際に寄ってどこまでも続く桜の絨毯を眺める。
大きな窓から差す光は当然眩しくて、輝きを放っていて、そして温かかった。
太陽の光と目の前に広がるこの景観が、弱り切ったわたしの心に、気を抜いたら涙が出そうになるくらいの優しさをくれた。
まるでひとりぼっちのわたしに寄り添うかのように、穏やかな春の風がどこからか吹いて桜の木々の枝を揺らす。
それと同時に、桜の花びらが枝から離れ、風に乗ってどこかに飛んでいく。
その光景をもっとはっきりと、近くで見たくなったわたしは窓の鍵を開け、勢いよく開け放った。
その瞬間、目に鮮明に映る桜吹雪。
「ほんと、どうしてこんなにきれいなんんだろう……」
わたしの零したほんの少しの疑問は、誰からも拾われることなく消えていく。
──当然、そうなるものと思っていた。
ある人の声が、この耳に聞こえるまでは。



