自分が泣いていることに気づいたのは、ぽつり、と一粒の涙が本の紙に染みを作ったからだ。
空白部分や文章の上にも涙は染みを作っていき、黒インクが涙に濡れてかすかに滲み始める。
声を押し殺して、顔を文庫本で覆っていたら、わたしが泣いていることになんてきっと誰一人気づかない。
そう投げやりに断定しながらも、心のどこかで気づいてくれる人がいることを期待した。でも、そんなことをしたわたしが馬鹿だった。いつまで経っても、みんなは楽しそうに笑い合い、お喋りを続けるばかり。
誰も地味なわたしには興味すらないのか、こちらを見ようともしない。
中学校生活三年間の間は、私は同じ小学校上がりの仲の良い友達に恵まれていたからこんな思いをしたことはなかった。
わたしだけ仲の良かった友達と違う高校に入学することが決まり、本当はずっと心の中で漠然とした不安を抱えていたのだけど、それに気づかないふりをしていた。
初めての状況にすっかり頭が混乱して、心が軽いショックを受けている。
「……っう、うう……」
どうしてこうなってしまったのだろう。
入学式の日、わたしが頑張って勇気を出して自分から声をかけることができていたなら、こんなことにはならなかったのだろうか。



