【side翠】




「ううっ……うぁぁぁ゛……っ」



背中につけている扉の中から、蓬の痛々しい声が響いた。



「蓬……」



無理だよな。

蓬は甘え方なんて、頼り方なんて知らずに生きてきたんだ。

それなのに急に『甘えろ』なんて、無神経だ。

自分自身を殺して、独り苦しみながら。



「うぁあぁん……っ」

「っ……」



正直、この扉を蹴り破りたい。

でも、蓬はきっと涙を見られたくないんだろう。

俺は抱きしめてやりたい。

あんなに小さな身体で自分自身を追い詰めて。

お前は自分自身を殺す必要なんてないと言いたい。

でも、ズルいな。

蓬のことを全て知ったかぶりするのは違う。



「翠」

「……泉?」



なぜか玄関が開いて、泉の声が聞こえた。

俺は蓬に聞こえてないか心配しながら、玄関まで向かった。