「っ、え?」



唇から温もりが離れたとき、やっと理解できた。

き、す……された……?

困惑している私を嘲笑うかのように、翠さんはニヤリと笑った。



「やっぱり男慣れしてないんだ。じゃ、これからたくさん俺色に染められるね」

「な、なに、して……っ!」



そう言ったけど、言葉をまた塞がれた。



「んっ、あっ……やっ」



何度も角度を変えてぶつかってくる舌。

はあっ、と息をつくと、グイッと親指で唇を拭った。



「な……何するんですか!! 私たちは契約! こ、こんなの契約書には……」

「“婚約者として振る舞うこと”。そうは書いたよ? だから、君は婚約者としてキスだって、その先だってすんの」

「なっ、あっ……!」



完全に翻弄されてしまう。

妖艶に笑う彼にイラつき───



「っ……!?」



自分から、キスをした。

勢いに任せ、背を伸ばして。

でも届かないから、ネクタイを掴んで引っ張った。