「ねぇ、君は───幸せにはなりたくないの?」

「っ、え?」



問いかけに、彼女は目を見開いた。



「君は、幸せになりたくないの?」

「っ……」



明らかに図星の反応に、もっと興味が沸いた。

彼女が演じてきたのは、上手いから演じきれたんじゃない。自分自身が興味を持っていないからだ。



「私、は……」



彼女の震える唇が動き、見つめると。

彼女は、ニヤリ、と笑った。



「幸せ? そんなもの、とっくの前に捨てたわ。もしかして、幸せにしてくれるの? できるならやってみたら? 私は罪人。罪人を惚れさせてみなさいよ」



───ドクンッ……!!

不敵に笑う蓬に、心臓が痛くなった。

……なんだ? 今の……。



「私はね、橙華のためなら悪女にだってなれるし、悪魔にだって魂を売れるの。私はもう幸せなんか望まない」



そう言い切った彼女の瞳には、覚悟があった。

これでわかった。

正真正銘、蓬は善人だ。

偽善者なんかではなく、心の奥は優しい。

でも、その性格を捻じ曲げられた。



「……フッ」

「……なに?」



俺も蓬と同じく笑みを浮かべ、言葉を放った。



「───その捻じ曲げられた性格、戻してやる」