腹黒王子様は、孤独なシンデレラに愛を抱く。

まあ橙華はああ見えて難攻不落だから、相当こっぴどくフラれたに違いない。

私は翠さんがいるけど、婚約というだけで結婚は決まっていないと思ったんだろう。



「婚約なんて、結婚が大前提のことでしょう。私を落とそうなんてバカな話」

「でも蓬、こんなにイラついてんじゃん」

「……何が言いたいんですか」



翠さんはいつもこうやって変なことを言ってくる。

まるで、私の思考を弄ぶかのよう。



「だって蓬、そいつに甘く見られたことが嫌だった、ってことでしょ?」

「何が甘く見られたんですか」

「わかってるくせに。俺への愛がバカにされたみたいでムカついたんでしょ?」

「……」



まさか、そんなところ突かれると思ってもみなかった。

……たしかにそうだ。私は、翠さんへの愛がバカにされたと思って怒った。

婚約者としてバカにされて、向けた愛もバカにされた。見ず知らずの奴に。



「……乙女心、勉強したみたいですね」

「うおっ……!」



私は思いっきりネクタイを引っ張った。

すると、翠さんはふらついて私に覆い被さるように壁に手をついた。

いわゆる、壁ドンという体制だった。



「私のこと、甘く見ないでくださいね? あなた以上に愛してますから」



そう言うと、翠さんは反対側の手で顔を覆った。

そして、私の首筋に顔を埋めてきた。



「……暗闇で男襲うとは、いい度胸してんじゃん」



翠さんは、暗い廊下でキスを落としてきた。

私はそれを、真っ直ぐに受け止めた。



「───俺のほうが愛してるから」

「いいえ。私です」

「はー、一歩も引かないねぇ」

「私、性根腐ってるんで」

「どこが。こーんな可愛い子、どこにもいないから」



無理やりまた口を塞がれる。

私は、目を閉じてそれを受け止めた。



───この愛を、ずっと抱きとめられますように。

そしていつまでも、共に未来を歩めますように。



そんな祈りを込めて、私は再度目を閉じた。



〜END〜