家の玄関を開けると、そこには、靴一つなかった。
「……そっか」
翠さん、帰ってきてないんだ。
謝ろうと、思ったんだけどな……。
「懐かしい」
私のスマホのロック画面は、橙華と二人で写ってる幼い頃の写真。
そろそろ、新しいのにしなきゃだよね。
私も昔は、こんなに生き生きとした表情をしていたんだ。
橙華はもう、過去に縛られずに動き出した。
なのに私はまだ、過去のことに縛られて本心を上手く出せずにいた。
「いつまで、笑えないままだと思う? 和葉」
和葉は今頃、九条家の掃除をしてくれている時間だろう。
私の部屋は掃除しなくていいと言っているけど、和葉なら容赦なくやるだろうな。
「翠さん……今どこにいるんだろ」
私はそっと、目を閉じた。



