「蓬、大丈夫か? 足は一応処置したが……」
「……」
保健室に連れて行ってくれて、擦りむいた膝も丁寧に応急処置してくれて。
私はただ、俯いているしかなかった。
翠さんの顔を見たら、泣きそうになるから。
「蓬、熱あるんじゃないか? こんな顔熱いぞ」
「……」
もう頭が割れそうなくらい痛いのに、翠さんのことしか考えていなかった。
翠さんは顔に触れたあと、ベッドに私の体を寝かせた。
「……ごめんな、遅くなって」
なんで、翠さんが謝るの。
私がしたこと、忘れたの?
私は……
最低なこと、したのに……。
「……どうして、自分の身を危険に晒してまで助けたんですか」
「は?」
「っ、だって、もしかしたら、責任を……追求されるんじゃ……っ」
嗚咽を漏らしながら、翠さんに訴えた。
翠さんは私の言葉を聞いた瞬間、顔をほころぼさせた。
「んなの、蓬のことが好きだからに決まってんじゃん」
「っ、え……?」
す、き……?
なに、それ……。
まだ、私のこと……好き、だなんて……。
「翠、さん……私、は……」
泣きながら言おうとしても、翠さんは待ってくれなかった。
「言わないで。俺、まだ蓬のこと諦め切れない」
「っ……」
「たとえ蓬が俺のこと好きじゃなくても、婚約者がいても。蓬は本当は嫌な婚約ってこと、知ってるから」
ああ、知ってるんだ。
その上でも、私のこと、まだ好きでいてくれるんだ。
「電話で言ったでしょ。俺、蓬のことまだ愛してる。死ぬまで、蓬を手に入れるまでそれは変わんない」
「っ……」
ああ、どうしようもなく好きだ。
あんなひどいことをした私のこと、まだ好きなんだ。
私も、大好き。
動かないけど、自分自身の本心を言って、抱きしめて、抱きしめられたい。
「蓬、本当の気持ちは? 蓬のこと、俺知ってるから。本当の気持ち教えて」
優しく言われて、涙が出た。
嘘……つけないよ……。
こんな優しい目をした人を……。
こんなに、好きな人を……───。
「───好き、です」
「……は?」
翠さんは本当に言うとは思っていなかったらしく、目を見開いた。
私は、濡れている頬を持ち上げて微笑んだ。
「私は、優しくて……誰よりも、頼りになって、こんな、私にも愛情をくれる翠さんのことが、世界で一番大好きです」
でも、それと同じくらい、橙華も大事なの。
それでも……。
翠さんが、好き。
この気持ちには、抗えない。
「蓬、俺───」
「っ、うっ……」
「蓬!?」
翠さんが何か言いかけたとき、ぐらりとふらついた。
ベッドに倒れるかと思ったけど、いつの間にか翠さんの腕の中にいた。
「翠、さん……?」
「ごめんな。こんなに我慢させて。もう辛い思い、絶対させねぇから。次こそ助けるから、今は安心して眠っとけ───……」
「……すみません……」
もうすでに意識が朦朧としていた私は、そっと意識を手放した。



