「要件があるなら早く済ませてください。私、リレーに出るので」
「ああ!?」
さっきまで大人しくしていたのに、急に荒くなった一人の女子。
「あんた、私らのこと覚えてないの?」
「なんのことです?」
まったく身に覚えのないことに、首を傾げる。
すると、彼女たちは逆上してきた。
「ッ、あんたのせいでレギュラー入りできなかった奴らだ!! バスケの!!」
「……ああ」
ドンッと壁に叩きつけられたながらも、頭の中で記憶を探した。
そして、思い出したのは二年前のこと。
たしか、私が中等部三年で、部活に入っていたときのことだ。
そのときはまだいろんな部活に入っていて、兼部もしていた。
そのときのバスケ部で同級生だったのが、彼女たちだ。
私はたしか中等部一年でレギュラー入りを果たしたんだっけ。
でも、それと関係ある?
「たしかに、あなたたちより早くレギュラーになった覚えはありますが、それで恨まれる理由は知りません」
それより、早くリレーして帰りたい……。
本当に頭が痛すぎる……絶対熱も上がってきてる。
「ハァ!? あんたのせいで三年になってもレギュラーになれなかったんだよ!! あんたさえいなければ!!」
「……」
この学園の部活は、どれにも本気。
だからこそ、いろんな県から強い選手が推薦で入ってくる。
その中でレギュラーになるのは結構な至難の業。
三年だけでも20人はいたから、早々レギュラー入りは無理だ。
「あなたたちの努力の問題だと思いますけど。私はただ努力をしてレギュラーになっただけです」
そう言うと、更に逆上してきた。
失敗だったなと思っていると、アナウンスが鳴った。
『最終リレー選手はグラウンドに集まってください』
「……チッ」
彼女たちは舌打ちをして、私に背を向けた。
「絶対リレー勝ってやる。私らの痛みを知れ」
「あなたたちに負けることはないと思いますけど」
でも、この状態で走れるかはわからない。
結構キツいし、グラグラしてきた。
「あと、もう少し……」
強がったのはいいものの、出れるかわからない状態。
でも、出なきゃ……。
体育祭総練習はどれだけ大切か知っていたから、欠席するわけにはいかない。
私の種目は毎回5種目以上あったけど、決めるときにいなかったから部活、学年込みのリレーに出ることになった。
「蓬さーん! 頑張れ〜!!」
「頑張って!」
うるさい声援も聞こえないくらいに、頭が痛かった。
「う……」
辛い声が漏れるほど、身体はぐらついていた。
そんな状態でも、順番は回ってくる。
───来た。
そう思い、バタンを受け取ろうとした瞬間。
「っ……!!」
隣の女子が、足をかけてきた。
よく見ると、その女子はさっきいた4人の中の1人だった。
反応が鈍くなっていたのか、反応が遅れてしまった。
「っ、う゛……!!」
気づいたときには、もう地面に倒れていた。
そして同時にくる、膝の痛み。
「蓬様……!?」
「ちょっと、あの女足かけて!!」
「蓬様!」
驚きの声が飛び交う中、私は痛みに悶え苦しんでいた。
周りにはもう誰もいない。
この大切な総練習で、コースに乱入する勇気ある者はいない。
一応保健委員はいるけど、さすがに入ってこれないらしい。
普段の私ならすぐに起き上がるけど、倒れた反動で頭の痛みが尋常じゃなかった。
痛い、痛い……頭が、割れる……ッ。
「う゛……ぁ……」
呻き声を上げながら、立とうと試みるも、どさりとまた倒れただけだった。
身体が震えてきて、必死に手で身体を抑える。
その姿に、周りにいる人たちも焦り始めた。
「ねぇ、なんで蓬様起き上がらないの……?」
「まさか、打ちどころが悪かったとか?」
「だとしたら助けなきゃじゃ……」
私はそんな言葉は聞こえず、立ち上がるのに一生懸命だった。
起き、上がらなきゃ……。
もうすでに1周の差がついている。
私の、せいだ……。
私が、転んだから……立ち上がれないから……。
「───蓬!!」
「え……?」
う、そ……───。
「どう、し……て……」
ボヤけかけている目で、しっかりと捉えた。
走ってくる、翠さんの姿を。
「蓬、大丈夫か!? 腕回せるか? 保健室行こう」
な、んで……?
あんなひどい、別れ方したのに……。
なのになんで……自分を危ない状況に晒してまで……助けるの?
総練習でコースに乱入するのはご法度。
なぜなら、転んでも立ち上がるのが力だから。
それを知ってるから、先生でさえも助けに入らなかった。
そして、すぐに気づいた。
翠さんが、マイクを持っていることに。
そして、反対の手で……。
───キィィィンンン!!!
っ……。
反対の手で、マイクの部分を触ってハウリングを起こした。
その大きすぎる音に、全員がこちらを向いた。
走っている人でさえ。
でも、走っている人たちは走りを続けて……。
『───止まれ!!!』
「っ……」
聞いたこともない、翠さんの大声だった。
その声に、走っている人たちは止まった。
観客席にいた人たちも、驚いたように見ている。
『止まれ。お前たちは転んだ人を見て手を差し伸べることもしないのか? スポーツマンシップを知ってるのか!?』
「え……」
初めて、見た。
ここまで、感情を荒らげている翠さんを。
審査員の人たちも、驚いて翠さんを見ていた。
『この総練習は中止だ。立ち上がれない人を見ても何もしない奴ら、全員だ。
───恥を知れ!!!』
「翠さん……」
翠、さん……。
ポロポロと、涙が溢れる。
あんな、ひどいことをした私を……。
最低なことをした、私を……。
庇って、くれて……っ。
『九条を保健室に運んだら、至急生徒会会議を開く。もちろん全校集会も行う。それまで自分の罪を考えてろ!!!』
「───」
翠さんはそう言い残し、マイクを切って捨て、私を抱き抱えた。
「蓬、ごめんな。遅くなって」
その優しい言葉、声色に、涙が止まらなかった。



