「澪音、寝てる?」

「ああ…少し前に寝ました。」


リビングと繋がる扉が開かれ、顔を出した莉音さん。

その声にしばらくの間、ぼーっとしていたことに気付き、返事をした。


日に日に細くなる澪音に、何も出来ないでいる俺。

ここ数日、澪音の様態は芳しくないようで、少しだけ主治医の先生や家族がバタついていた。


「ありがとね。いつも見ててくれて。」


最近、ほとんど食事もとれていない澪音が唯一美味しいと言って食べるフルーツゼリーをそっとテーブルに置き、座った莉音さん。


「いえ、逆にすみません。家族でもないのにずっといて。」

「ううん、目覚ましたとき澪音部屋を見渡すでしょ?あれ、旭陽のこと探してんだよ。
旭陽がいないと、すっごい不安そうな顔するの。だから、旭陽がいてくれて、私達も安心してる。」


何もできない無力さに押しつぶされてしまいそうだけど、それは莉音さんも同じようだった。


「あー、強くいないといけないのにね。澪音が一番強いんだから嫌になるよね」

「本当に。弱い心が澪音にばれないように、毎日必死ですよ」


弱々しく笑って、俺の頭を撫でる莉音さん。

俺も静かに笑い返して、寝息を立てる澪音を見つめていた。