もしかして晃司かと思って一瞬息を飲むが、晃司にこの場所がわかるはずもない。
稔が玄関へ出るとすぐに稔のお母さんが部屋に入ってきた。

「お母さん!?」

「杏奈ちゃんこんばんは。急に押しかけてごめんね? 今日稔の仕事場に行ったらなんだかこの子の様子が変で、気になって来ちゃったのよ」

そう言うお母さんはバッグひとつで、突然思い立ってやってきたのがわかった。
その行動力が今はすごくありがたい。

「実は今から杏奈とふたりで出かけるんだ。母さん悪いけど、奈美をみててくれないかな?」

やってきた母親に留守番を頼むのがしのびないのか、稔は視線を伏せている。

「お母さん、お願いします! 夫婦の大切な用事なんです」
杏奈が頭を下げると、お母さんは笑顔を浮かべて大きく頷いた。

「孫の面倒をみさせてもらえるなんて、私は幸せものね。あんたたちは頑張っていらっしゃい」

これからどこへ行くのか、なんの用事なのか。
そんなことは一切聞こうとせず、お母さんはふたりの背中を押したのだった。