右手を自分の腹部に触れる。

まだ少しも大きくなっていないし、見た目じゃなにもわからない。

だけど確かにそこにいる赤ちゃん。
その存在を思うだけで涙が出てくる。

愛しい。
素直にそう感じることができる、初めての存在だった。
「私は……私はこの子を産みたい」

それが茨の道への入り口だとしても、世間からどんな噂を立てられようとも、赤ちゃんの命を奪うなんてこと、やっぱりできっこなかった。

「そうか」
稔が杏奈からスッと体を離し、そしてまっすぐに見つめた。

稔のキレイな瞳に見つめられると身動きが取れなくなる。
その瞳に吸い込まれてしまいそうだ。

「それなら俺がその子の父親になる」
稔の言葉に、心臓が止まるかと思った。