「なにが大丈夫なんだよ」
「本当に、大丈夫だって」

無理やり笑顔を作ってコーヒー2配分の伝票を持って立ち上がる。

その手を稔が制した。
「ここくらはおごる。それから、アパートに戻るときには俺に連絡してくれ」

そう言うとナプキンを一枚取って、白衣の胸ポケットに刺さったペンを抜き取ると、スマホの番号を書いて手渡してきた。

「うん。わかった。コーヒーごちそうさま」
杏奈は素直にメモを受け取ると、笑顔で喫茶店を出たのだった。

だけど本当は稔に連絡する気はなかった。
これから先も稔と会うことはもうないだろう。

1人帰りの電車に揺られながら、杏奈は絶望的な気分になっていたのだった。