「ほんっとお前は使えねぇなぁ!」
アパートの一室に男性の怒号が響き渡って辻杏奈は身を縮めた。

「ご、ごめんなさい」
反射的にソファに座っている男の前でヒザをついて頭を下げる。

ここは杏奈が暮らすアパートの一室で、ソファに座っている男は杏奈の交際相手である青木晃司だった。

晃司はツンツンに立てた前髪と同じようなするどい目を杏奈へ向けている。
晃司との出会いはいまから半年前まで遡る。

当時杏奈は仕事仲間の飯田という女性に誘われて、ロックバンドの演奏を見に行った。

普段ロックなんて聞かない杏奈にとってはその世界がとても新鮮であり、そのバンドのギターを担当していたのが晃司だった。

晃司たちのグループはメジャーではないが、一定の人気があり、中でもギターの晃司が一番人気だった。

杏奈の好きな優しそうなタイプではないけれど、するどい目つきの奥に優しさが潜んでいる……ように、そのときは見えていた。