『今日、北海道で初めての雪が観測されました!』

朝、氷室真白(ひむろましろ)がテレビをつけるとニュースキャスターがそう告げていた。真白の故郷である北海道の札幌、さっぽろテレビ塔の前で赤いマフラーを巻いたキャスターが笑顔で言い、道民にインタビューをして回っていた。

「くだらない。雪なんて毎年降るのに……」

真白はそう氷のように冷たい声で独り言を呟き、コーヒーを胃の中へ流し込んだ。頭の中に人生で一番最悪と言っても過言ではない思い出が浮びそうになり、それを振り払うかのようにわざと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。

着替えをし、歯磨きやメイクなどを済ませるとコートを羽織って真白は家を出る。家を出た刹那、すっかり冷たくなった風が体に触れた。この冷たい風を感じるたびに、真白はため息を吐く。またこの大嫌いな季節がやって来たのか、と思ってしまうのだ。

真白が住んでいるのは北海道から遠く離れた横浜である。横浜の某会社の総務課が彼女の職場だ。