イッサクは、お茶を飲んだ。
「なんか、話が脱線したね」
「いえ」
「こんな子供だったから、僕は、よく馬鹿にされた」
「はい」
 ミサキは、笑った。
「だけど、中学1年生の時、僕は、馬鹿にされたから、<俺は、学級代表になる>と言って、学級代表の選挙に立候補したけど、負けた」
「負けたとき、僕は、学校で、<高村イッサクは、馬鹿だ><お前なんか学級代表になる器ではない>と言って、怒りそうになったけど、青戸中学校の先生が、<高村イッサク君は、自分の意思で立候補したから、偉いんだ>と言った」
「すごい、理解してくれる人がいたんですね。で、その先生は、何を教えていましたか?」
「国語」
「それで、どうして、今につながっているんですか?」
「その時の国語の先生、男の先生だけど、その男の先生が、東相模市の出身だったから、後で、<高村イッサク君は、一度、二階堂法師の自伝を読んだらいいよ>と言って」
「それで、東相模ひだまり大学へ行ったんですか?」
「うん、そうだ」
 ここで、高村イッサクは、また、お茶を飲んだ。
「だけど、そんな大学を卒業してから、東相模市役所で仕事をして、文化課にいたのに、どうして、役所の仕事を辞めたのですか?」
「文化事業が、削減になりそうだったから、またまた、中学校の時の悪い癖がでて」
「それは、何ですか?」
「<今度、文化事業を促進するために東相模市の市長に立候補する>とあけぼの新聞の記者の人と冗談で居酒屋でしゃべっていたら、それが、文化課の上司に知られ、それで、役所を懲戒解雇になったのね」
 ミサキは、何だかいたたまれない気持ちになった。
 ミサキは、高村イッサクの性格をそのまま、掴み始めた。
 ミサキは、自分の大学の方が、優秀で、偏差値が高いなんてなっていたが、そこまでの気力はないと思った。
 そもそも、ミサキは、学校時代、級友をはばかることなく、学級代表になるなんて言えた人物ではなかった。
 いつも友人とランチへ行き、ショッピングへ行き、東京ディズニーランドへ行っていた。こんな不器用だけど、そこに、ミサキは、そんな行動をしていたのか、と思った。器用だったけど、どこか「フラフラしている」ともよく言われていた。「軽い女」とも言われていた。
 ただ、周りの男性社員で、あけぼの新聞の同僚で、上司になった男よりも凄いと思った。
 少し、涙が出てきた。
 その時だった。
「イッサクさん」
「はい」
 少し、高村イッサクは、今までと違う言い方にびっくりしていた。
「今日、取材が終わったら、昼ご飯ですけど、一緒にどうですか?」