「たぶん。柚と一緒に屋上から飛び降りて、いつの間にか朝になってた」

 少なくとも“死んだ”という自覚はない。
 腕を切りつけられたものの、致命傷には至っていなかった。

「屋上出られたのか!」

 夏樹くんが意外そうに言うと、朝陽くんが頷く。

「あ、1階の事務室で鍵見つけたんだ。屋上開けたのは俺。追われたけど、このまま殺されるくらいなら、ってそのまま飛び降りてみた」

 彼が追われていたところは確かに見た。

 屋上が開いていたのも、彼の姿がなかったのも、そうやって逃げきったからだったんだ。

「……なるほどな。じゃあ推測は正しかったわけだ」

 高月くんが納得したように数度頷いて続ける。

「僕は殺された。(いぬい)もそうなんだろ?」

「あ、ああ……」

 夏樹くんは答えた。
 そのときのことを思い出したのか、俯きながら顔をしかめる。

「────“屋上から飛び降りること”が唯一の脱出方法」

 一拍置いて、確かめるように高月くんは言った。

 それは当然ながら、校舎からの、そしてあの悪夢からの、という意味だろう。

「それと腕の傷だけど、残機と考えてよさそうだな」

 生き延びたわたしと柚、朝陽くんは減っていなくて、殺された高月くんと夏樹くんはひとつ減った。

 こんなふうにばらつきが出た以上、各々の“残機”を表していると見て確定だろう。

「生き延びても……増えはしないんだね」

 柚が自分の腕を眺めながら呟いた。

 確かにそうみたいだ。
 失った残機は戻らない。

 これから夢の中で、うまく死線(しせん)(くぐ)って、鍵を発見して、屋上から飛び降りて、殺されずに済んで────そんなことを繰り返したとしても、それは所詮、“延命”に過ぎないのだ。

「……はぁ。もうやだ」

 息をついた夏樹くんが、項垂(うなだ)れるように頭を抱えた。
 腕や髪の隙間から見えるその顔色は、先ほどよりも悪くなっている。

「いつまで続くんだよ……。このままじゃマジで死ぬって」

 ひび割れた声で言う。
 その手は震えていた。

 いや、いらついたように貧乏揺すりをしている振動が伝わっているだけかも。

 いずれにしても、彼の心は恐怖に染まりきっている。

「…………」

 それを見て昨晩のことを思い出し、いたたまれない気持ちになった。

 わたしのすぐ近くまで迫っていた化け物は、ワープしたあとに夏樹くんを追っていった。

『あああぁっ! くそ! 何で俺なんだよ!!』

 ……わたしはただ運がよかっただけだ。
 彼もまた、偶発(ぐうはつ)的に狙われてしまっただけ。

 だけど、何だか自分の生存はその死の上に成り立っているように思えた。

 誰が悪いわけでもないのに、責任を感じてしまう。