その日のレッスンは愛華と水原の連弾の練習だったのだが、やはりというか愛華の演奏はボロボロだった。


 水原との演奏もようやく息が合ってきて、発表会までは精度をあげるのみ、というところまできていたのだが、先の一件が気掛かりでうまく集中できなかった。水原に怒られたのは当然のこととして、先生にも心配されてしまった。


「はあ…」


 愛華はため息をつきながら、自分のロッカーを片付けた。


 タブレットの中に楽譜は入っているので、紙の楽譜類は持ち帰ることにする。必要とあらば誰かに印刷してもらうなり、データをもらうなりしよう。思いがけず荷物が重くなってしまったが仕方のないことだ。


「よ、っこいしょお」


 愛華が楽譜やプリントの詰まったスクール鞄を肩に掛けていると、傍で先程のレッスンの復習をしていた水原が顔を上げた。


 また何かお小言を言われるのではないかと警戒してしまう。


「愛華、この後時間あるか?」


 ぎくりとした愛華は、返事に戸惑う。


(うわ…絶対さっきの演奏の駄目出しだよ…)


 この後全く予定はないが、今日は予定があるので…と断る気満々だった。しかし先程のボロボロの演奏は愛華の集中力不足のせいである。自分のせいなので、ここは反省しつつ水原のお小言を聞くしかない。


「う、うん、大丈夫だけど」


「そうか、じゃあ出ようか」


 水原の後ろについて、渋々ピアノ教室を後にする。


「ん?」


 何となく視線を感じた気がして、愛華は振り返った。しかしそこには誰もいない。


(気のせいかな…)


「どうした?早く行くぞ」


 水原に急かされ、「はいはい」と愛華も駆け足で彼の隣に並んだ。