窓の外でなにかが光ったように見えた。
城の三階にある自室にいたミュリエルは、窓に近づき暗闇に目を凝らす。すると階下からミュリエルを呼ぶ声が聞こえた。


「マティアス様! どうしてここに!?」


そこにいた人物は指先をくるりと回し、先ほどミュリエルが目にした光を発した。思わず驚きの声をあげたが、すぐに口元を押さえる。


「星空があんまり綺麗だから、ミュリエルと一緒に見たくて馬を飛ばしてきた」
「そんな、危険です。誰かに見つかったら大変!」


口もとに手をかざし、小声で諭す。

皇太子のマティアスとミュリエルはもともと夫婦であった。
しかし互いの母国が、第三国の鉱山を奪い合う戦いをはじめ、ミュリエルは両親の強い要請により国へ連れ戻されてしまったのだ。
どちらも引かない争いは、もう二年も続く。婚姻によって結ばれた和平のもろさを、ふたりとも痛いほど痛感している。

鉱山を持つ第三国の王子がミュリエルとの結婚を望んでいるのが、さらに混乱を極める要因となっていた。その国は、ミュリエルの聖なる魔法が目当てでもあった。