皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

アガットに見送られて部屋を出る。瑠璃宮の前には馬車が準備されていた。

ニコライはひょいと身軽に馬にまたがり、エリーヌの乗った馬車を先導する。エリーヌは馬車の窓から瑠璃宮の庭を眺めた。

宮殿の庭には草花が咲き誇っていたが、ここにはなんの植物も生えていない。手入れがされていないのではなく、花壇が空っぽの状態だ。

(どうしてなんの花もないのかしら。ちょっと寂しいわ)

エリーヌは実家の庭で草花を育てて楽しんでいたため、それらがそばにない生活は考えられない。

(でも部屋には花瓶に生けてあったわよね。あの花は宮殿から持ち込んだのかしら)

そんなことを考えているうちに馬車が止まる。宮殿に到着したようだ。

ニコライに手を借りつつ馬車から降りる。彼のあとについて宮殿の中に足を踏み入れると、たくさんの人が忙しそうに行き交っていた。

パーティーで訪れたときもそうだったが、あのときはエリーヌになど誰も目をくれなかったのに、今日は違う。通り過ぎる人は立ち止まって目礼し、女性の場合はスカートの裾を摘まんで膝を折った。
中には遠巻きに眺める者もいて、そういった視線はそこはかとなく攻撃的な色が滲んでいる。魔力もないくせにと言いたいのかもしれないとエリーヌは感じた。