皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

皇妃がふらふらとひとりで歩くのは体裁が悪い。リオネルが妻を軽んじているように受け取る者もいるかもしれず、それでは彼が希望する〝仲睦まじい夫婦〟には見えなくなる。

つまりリオネルの沽券にかかわるのだ。


「承知いたしました。仰せの通りにいたします」
「窮屈だろうが堪えてくれ」
「いえ、窮屈だなんて。ただ申し訳ないなと思っただけですので。お気遣いをありがとうございます」


エリーヌは目線を下げてお礼を告げた。

リオネルは一見ドライなところがあるように見えるが、それは違うようだ。昨日から彼の言動には、端々に優しさがある。
とはいえ、仲のいい夫婦に見せるための手段なのが大きいのだろう。

出された朝食のほとんどを食べ終えたそのとき、エリーヌの前にデザートが置かれた。

(あっ、サクランボだわ!)

心の中で喜びの声をあげる。エリーヌはさくらんぼが大好物である。

寒暖の差が大きくなければおいしいものは育たないらしく、一年を通して温暖なミッテール皇国では栽培していない。そのためサクランボは輸入頼りだ。
ランシヨンで暮らしていたときも、港から商人たちが市場や店に卸すのを楽しみに待っていた。