皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

「ヴィルトール辺境伯の長女、エリーヌと申します」


目線を下げてドレスを摘まみ、膝を折り曲げる。


「此度のお話、ヴィルトール家にとって誠に光栄に存じます。どうかエリーヌを末永くよろしくお願い申し上げます」


エリーヌの挨拶にエドガーが続いたそのとき、皇族席のほうからガタンという物音が聞こえた。

思わず目を向けると、三十歳そこそこの男性が椅子から立ち上がって目を見開き、エリーヌたちのほうを凝視していた。

(……どうしたのかしら。あのお方も私では身分が不釣り合いとお思いになったのかもしれないわ。美しい皇帝の隣に立つべき人間ではないと)

その様子を鋭い眼差しで見ていたリオネルが軽く咳払いすると、その男性は周りの皇族たちに窘められ、すごすごと座りなおした。


「堅苦しい挨拶はもうよい。そなたを私の妻と認めよう。これより婚礼の儀に入る」


淡々とした一本調子の言い方だった。『妻と認めよう』と言いながら、そこに感情はまったく感じられない。パーティーのとき同様、結婚に興味がないのを隠すつもりもなさそうだった。