皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

生きた心地のしない中なんとか気持ちを奮い立たせ、大聖堂を見渡せる玉座に座る皇帝のもとに歩みを進める。緊張のあまり深紅の絨毯に足を取られそうになったが、なんとか堪えた。

いっぽうエドガーは辺境伯の称号に恥じない堂々とした振る舞いで、エリーヌは〝さすがおじ様だわ〟と心の中で呟かずにはいられなかった。

俯き加減で歩いていたエリーヌの視界の隅に黒いブーツが映ったそのとき、エドガーが足を止める。エリーヌもそれに倣って立ち止まった。


「面を上げよ」


よく通る声を発したのは皇帝リオネルである。声量が大きいわけではないのに、しんと静まり返った大聖堂に響き渡った。

促されて顔を上げると、十歩ほど離れた玉座に座るリオネルの姿をとらえる。
髪色の合わせ銀色の刺繍が美しいサファイアブルーのフロックコートを着た彼は、以前会ったときよりも男ぶりが上がっていた。

この一カ月、リオネルは平定した近隣諸国との交易や軍事政策の折衝をしてきたと、昨日皇都に到着したときに彼の側近が話していたのを思い出した。軍神と呼ばれる一面だけでなく、国のトップとして施策にも敏腕をふるっているからこそ精悍さが増すのだろう。

フロックコートと同じ、サファイアブルーの瞳がエリーヌとエドガーを見据える。