エリーヌの魔力が開花した噂は宮殿内にまたたく間に広がり、いつしかミッテール皇国の人々の知るところとなった。

アンリを救うべくエリーヌが発動した魔法があまりに大きかったため、その波動が宮殿の魔法師たちに感知されたためである。

アンリの暴走した魔力を止めるために命がけで助けた皇妃は素晴らしいと、エリーヌの評価はうなぎのぼりとなった。

それをなによりも喜んだのは、ほかでもなく魔石研究所のダリルである。『やはり聖女の再来であった』と、自身の見解の正しさを自画自賛。でっぷりとしたお腹を太鼓のようにポポンと叩き、得意満面だった。

強大な魔力の放出で体力を消耗したエリーヌは、回復直後から宮殿の一室で〝公務〟を開始している。


「妃殿下、この頃どうも、腰の痛みがひどくて」
「では後ろを向いていただけますか?」


エリーヌの指示に従い、年配の侯爵が丸くなった背を向ける。
その背にそっと手をかざし、エリーヌは詠唱した。


聖なる癒し(ホーリーヒーリング)