皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

振り返ってみてもリオネルの姿は見えないが、彼にはふたりの所在がわかっているようだ。制止を命ずる声が遠くから響く。


「……っアンリ様……もう無理、で……すっ」


エリーヌがそう息も切れ切れに言ったときだった。
すぐ目の前に岩の壁が立ちはだかる。それまで道が続いていたように見えたから、おそらくリオネルが魔法を使ったのだろう。

だがしかし、今目の前で起こっている事態がエリーヌには理解できない。
なぜリオネルはここまで馬を飛ばしてきたのか。
エリーヌが部屋に不在だと知り、追いかけただけなのか。

魔法を使ってまで行く手を阻むのは、いったいなぜ。

まさか、リオネルまで前世の記憶を持っているのだろうか。ノーマンドとして、ミュリエルを奪うためにここへ――?


「くそっ」


行く手を遮られたアンリが、十二歳の彼には似合わない暴言を吐く。


「エリーヌ、こっちだ」