皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

抵抗も空しく、アンリに引きずられるように歩く。夜も深いため月明かりだけが頼りだが、両脇が林のため足元まで光は届かない。

時折、鳥が羽音を響かせ、木の向こうには動物の気配を感じる。今にも飛び出してくるのではないかと気が気でない。

そうして暗がりに怯えていると――


火炎(フレイム)


アンリの詠唱で小さな炎が現れた。それはふたりの前をふわふわと浮かびながら、まるで誘導するかのように進んでいく。


「どこへ向かうおつもりですか?」
「まだ少し歩くけど、この先に屋敷を準備してある」
「お屋敷を?」


アガットが言っていたことを思い出した。
アンリはここ最近、侍従も連れずにひとりで外出していると。それはその屋敷を準備するためだったのかもしれない。


「そこでひっそりとふたりで暮らそう」
「それは無理です」


ぎゅっと掴まれた手に力が込められる。逃げるなんてもってのほかだと言っているようだ。