皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

そんなことはできないだろうと高を括っているのか、それともそうはさせるかと意地になっているのか。アンリは馬の速度を上げる。

このままでは本当に連れ去られてしまう。危機感が募ったエリーヌは、力任せにアンリの腕を引っ張った。


「アンリ様! お願い!」
「エリーヌ、やめろ!」
「キャアッ!」


その瞬間、体勢を崩し、エリーヌはアンリもろとも馬から転げ落ちる。地面に打ちつけられる衝撃が全身に走った。


「――っ!」


体がゴロンゴロンと転がり、草むらに突っ込む。主を失った馬が走り去る蹄の音を遠くに聞きながら、ゆっくり目を開けた。

不思議なことに、落馬したのにそれに見合う痛みがない。
どうして?と思った直後、その理由を思い知る。アンリがエリーヌを抱き留めていたのだ。


「アンリ様!」