皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

カゴからひとつ摘まんで口元に持っていくと、リオネルは少し照れながら口を開いた。

我ながら恥ずかしい行為をしてしまったと、エリーヌは慌てて居住まいを正して前を向く。不意に訪れた沈黙が苦しい。

それは嫌なものではなく、むしろ胸の高鳴りを後押しするため鼓動の音が今にも外に漏れてしまいそうだ。

今にも落ちてきそうなほど大きな月が、ふと夢の光景を思い出させる。


「今、天使が通りましたね」


ミュリエルの言葉を借り、沈黙の壁を破った。


「……え?」
「不意に沈黙が訪れるのは、天使が通ったからだそうです」


完全にミュリエルの受け売りだ。
難しい話をしたわけでもないのに、リオネルが急に真顔になる。エリーヌをじっと見つめる瞳に切実さが滲んでいた。


「……陛下?」
「エリーヌ、キミは――」