皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

(もしかして陛下は、私を気遣って用意してくださったの?)


エリーヌはこのところ気持ちが塞ぎがちだったため、それに気づいていたリオネルは好物のサクランボで喜ばせようとしたのだろう。


「ありがとうございます。とてもうれしいです」


素直な気持ちを伝える。

(やっぱり私は陛下が好き。誰の転生であれ、陛下は陛下なんだもの)

リオネルはリオネルであり、ほかの誰でもない。


「それはよかった。バルコニーで一緒に食べないか?」
「はい、ぜひ」


リオネルを追ってバルコニーに出る。
風はなく、清々しい空気だ。大きな月が我が物顔で空に浮かび、銀色の光を放っていた。

夢でミュリエルとして見た光景に似ている。舞踏会の夜、マティアスと初めて出会ったバルコニーの夜空である。懐かしく感じるのは、ミュリエルの記憶があるせいか。隣にいるのはノーマンドの転生者だというのに。