皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

言葉を理解しているのか、腹を蹴られたわけでもないのにき出した。リオネルは片手で手綱を巧みに操り、馬の足取りは徐々にスピードが上がっていく。


「大丈夫か?」
「……はい」


そう返事はしたが、全身ガチガチ。肩から下は強張った状態で馬に揺られている。


「下を向いてないで、顔を上げて前を向いて」


リオネルが背後から声を掛ける。

(前を……)

おっかなびっくり顔を上げていくと、宮殿内の木立や立派な彫刻、噴水などの景色が速いスピードで流れていく。いつも馬車から見ていたときよりも目線が高い。

同じ景色のはずなのに、全然違うものに感じる。普段の生活ではとうてい感じられないスピードは、空間を切り裂いていくよう。


「気持ちいい」

エリーヌの頬や髪を撫でていく風に思わず呟く。あれきり乗れなかった馬に乗れるようになるとは思いもしない。恐怖が消えたのは、ほかでもなく逞しい腕に守られているおかげ。