皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

(もしかしたらサシェのお礼でそこまでしてくれているのかしら)

冷酷と言われるリオネルだが、気の回し方は決してそうではない。


「じゃ、私はこれで」


リオネルが背を向けようとしたそのとき、エリーヌの背後でカタンとなにかが音を立てる。
エリーヌが振り返るのと、リオネルが「アンリ」と名前を呼ぶのとは同時だった。静かなのに背筋を伸ばしたくなるような凛とした声だ。


「見つかっちゃったか」


咄嗟に身を隠したのか、アンリがテーブルの下からバツが悪そうに出てくる。


「またここでさぼっているのか」
「さぼってなんかいないさ。エリーヌのところで魔石の勉強をしているんだから」


アンリに〝ね?〟と目線を送られ、エリーヌは「ええ、そうですね」と援護する。

義妹のマーリシアと重ねてしまうせいか、エリーヌはどうもアンリに弱い。彼が人懐こい性格なのもあるだろう。懇願されると突き放せないのだ。