皇帝陛下がやっぱり離縁したくないと言ってくるのですが、お飾り妃の私が伝説の聖女の生まれ変わりだからですか?

咄嗟に一歩下がり、頭を垂れる。
アガットの声につられてドアのほうを見たエリーヌも、思わぬ人物の登場に急いで立ち上がる。


「陛下、どうかされたんですか?」
「夫が妻の顔を見にくるのはおかしいか?」
「えっ……あ、いえ、そうではないのですが」


リオネルがエリーヌの部屋を昼間に訪れたのは初めてのため、驚くのも無理はない。優しげな笑みを浮かべながら〝妻〟と言われたのもちょっとした衝撃だった。


「朝、話していた花の種や肥料を手配したから、その報告も兼ねてね」
「わざわざ陛下が運んでくださったんですか?」
「侍従に渡してあるから、好きなときに使うといい」


あまりにも早い手回し、しかもリオネルが直々に準備してくれたとは。

配下の人間に頼むなりなんなり、リオネル自ら手を下さずに済む手段はいくらでもあったはずだ。


「お忙しいのにお手を煩わせて申し訳ありません。ありがとうございます」
「いや、礼には及ばない」


リオネルは僅かに首を横に振った。